プラスチックのままごとおもちゃが並ぶ屋台。
昔はお祭りで遭遇するたびに心を躍らせていたが、近頃は滅多に見かけなくなった。
しかし、練馬にある大鳥神社の酉の市では、「ママゴトセンター」なる屋号でままごとおもちゃを売っている屋台が現役であるらしい。それを知ったのは、数年前のことだった。
こどもの頃はせいぜい1つか2つしか選ばせてもらえなかったけれど、大人になった今なら、財布に糸目をつけず、色とりどりの果物や食べ物や食器を模したプラスチックのおもちゃをザルいっぱいに選べる。
いつかママゴトセンターでおもちゃを大人買いするんだ…
甘い夢を胸に抱きつつ、月日は流れ、気がつけば、わたしは母親になっていた。
1歳9ヶ月になろうとする娘は、夕飯の支度を待ちながらリビングでおままごとに興じ、「ごはんだよ」と呼ぶと、「ほんものの、ごはん、たべるー」と言ってテーブルに駆け寄ってくる。
そんな折、「ママゴトセンターがそろそろ店じまいするかもしれない」とのニュースを目にした。
なんでも、プラスチックのままごとおもちゃを仕入れていた問屋さんが数年前に廃業したため、今の在庫がなくなり次第お店も…という話らしい。
プラスチックのおもちゃをザルいっぱい大人買いする。あの夢をかなえるには、今しかない。
娘にままごと用のおもちゃを買ってあげる、表向きはそういうことにして、わたしの内なる女児の爆発しそうな物欲を抑えながら、いざ、練馬へと向かった。
練馬駅を出た途端、神社に向かって長蛇の列ができていた。狭い路地に無数の屋台がひしめき合い、市は熱気と活気に溢れていた。
大鳥神社はこぢんまりとしたお社だったが、ポップな飾り物の屋台や里神楽の奉納があったりして、地元で親しまれている神社らしい趣があった。
ママゴトセンターは、神社を出た少し先の屋台村の中に、どこかで見覚えのある猫の顔のイラストとともに、屋号を掲げていた。
小さな女の子とその親、かつて女の子だった大人たちが群れをなしておもちゃ売場の周りを取り囲んでいた。なりふり構わぬ押し合いへし合いのバーゲンセール状態に思わず腰が引けたが、意を決して足を踏み入れた。
色とりどりのままごとおもちゃが宝石のごとくキラキラと並び、まさに女児の夢を具現化した世界だった。
数多あるおもちゃの中から、娘はファストフードのおもちゃセットを選んだ。
発泡スチロールの小さなトレイに、ハンバーガーとポテトとホットドッグ、シェイク、それとなぜかトウモロコシの切れ端が入って500円。なぜこのラインナップにトウモロコシを投入しようと思ったのか。真相は不明だ。
小さいけれどよくできたデザインだ。色味もかたちも胃袋をキュンキュンくすぐってくる。そしてリアリティがある。あのファストフード店のデザインを模しているのだけど、特にシェイクとポテトの出来が秀逸だった。
シェイクのロゴは「Modonald」だった。
一方、ポテトは
「Merry Xmas」
もはや「M」以外の共通ポイントが見当たらない。
そのほか、昭和味あふれる鮮やかなピンクの急須に、ラーメン、小さなパフェ、カラーセロファンのような透明のコップを購入した。
パフェのアイスクリーム部分をコップにのっけてみたら、思いのほか、レトロな喫茶店のクリームソーダみたいになった。
お会計の際、お店のおじちゃんがおにぎりと鉄火巻とスイカのおもちゃをおまけでつけてくれた。
しめて1600円也。どう考えてもこどもが一度に屋台で使う額の範疇ではない。完全に大人が趣味に費やすそれだ。
でも、かまわない。思い出代みたいなものだ。
購入したおもちゃ類は、透明の大きなポリ袋に詰めてもらった。子どもが持ちやすいよう、取っ手のところをクルッと丸めてくれているところに店主さんの愛を感じる。
祭の間、ビビッドカラーのままごとおもちゃが詰まったポリ袋を提げて歩いたり親に抱っこされたりしている女の子をたくさん見かけた。
娘も例に漏れず、帰りの道中では大事に大事におもちゃの袋を握りしめ、決して手放そうとしなかった。かつて女児だったわたしの姿が重なり、胸がぎゅっと締めつけられた。
これから先、娘の夢見る世界を一緒に追いかけつつ、願わくばできるだけたくさん、娘がわたし(の内なる女児)の夢追いに付き合ってくれたらうれしいなと思う。
もちろん、自分の好きなものの押し付けはしないと決めている。けれども、かわいいものを一緒にかわいいと愛でて喜べる時間ができるだけ長く続けばいいな、そんなことをおのずと望んでしまう。
Text by 白バラコーヒー
0コメント